愚妹

 私と姉は血の繋がりを疑ってしまうほどに似ていなかった。大きな瞳の目元は少し釣り上がっていて猫に似ており、鼻は高く、厚い口唇は真紅のリップがよく似合うと自負している。

 自分は姉よりも美しい。そんな確かな自信があるのに、義兄である彼は義妹である私を愛してくれはしない。死んだ姉のことだけを今でも思い続けているなどと、陳腐な感情を彼は持ち合わせてはいないだろう。彼の頭にあるのは“復讐”の文字だけだ。

「キスしてください」

 なんの感情もこもっていない声で言う私の顔を、椅子に座ったままのアリアスが見上げた。目を合わせるなりフンと鼻を鳴らし、私を馬鹿にするように笑う。

「君に?私がか?」

「そうです。いいから、してください」

 一歩近づき再び強く言っても、アリアスはゆっくりと瞬きして、喉の奥で静かに笑うだけだった。もどかしさを感じた私は膝を折って床に座り込むと、彼の足にすがりつく。ふくらはぎに手を這わせ、固く筋肉質な太ももに手を伸ばす。そこに自分の頬を当てると、アリアスの手が伸びてきて顎を掴んだ。彼の瞳が私を見つめる。眼差しはとても優しい。

 しかし次の瞬間、その表情は一変した。瞳の色が変わったかのように錯覚するほど眼差しは冷ややかなものに変わり、足にすがり付く私を、まるで汚物でも見るような目で見つめる。アリアスは私の肩のあたりに手を当て軽く押した。前のめりだった体はバランスを崩し床に尻もちをつく形になる。彼は足を組み換え、上になった方の足を伸ばすと足先で私の頬に触れた。

「舐めろ」

 冷たい氷のような目。背中から頭の後ろにかけて、肌が泡立つような感覚になるが、それは決して不快などではなく、快楽を感じるものだった。唾を飲み、喉がゴクリと音を立てる。

「聞こえなかったか。私の靴を舐めろと言ったんだ」

 逆らう事などできない。いや、逆らう気など最初からなかった。アリアスが差し出した足に軽く手を添え、口唇を落とす。彼の靴はいつも光るほどに美しく磨き上げられている。そこに自分の湿った舌を這わせ、舐めた。靴の上を私の舌が軽く一往復すると、再びアリアスの手がこちらに伸びてきて、髪を握りつぶすように後頭部を掴む。引っ張られ、力任せに立たせられると、バランスを崩した私の体は椅子に座ったままのアリアスの上に倒れ込んだ。

「いい子だ、

 低い囁きが耳元で聞こえ、口唇が塞がれる。そのキスは私が望んでいたものよりも強く乱暴で、甘さなど微塵もない。それでも、胸の中は高揚感で溢れきっていた。

 従順であることも、靴を舐めることも、いい子だと褒められることも、何もかも私が望むことではなく、アリアスの瞳には死んだ姉の姿すら映っていない。彼の心にあるのは復讐の気持ちだけで、私など、彼の靴についた微かな唾液ほども存在しない。彼が私を愛してくれる日など、この先一生来ないのだろう。それでも私は望んでしまう。愚かな妹である私は、不毛な夢を見て、義兄のキスにただただ溺れるのだ。