嗚呼、伝わらない
情報の共有をするためにハンクのデスクに行き彼と話をしていると、すぐ向かいのデスクに座るコナーが突然、無表情で言った。
「いい加減にしてもらえませんか、」
言葉の意味が分からず、石の様に固まり口が半開きになったがその表情はひどく間抜けだったろうと思う。
「……ごめん、何のこと?」
なんとなくコナーは怒っているのだろうと感じた私は相手を刺激しない程度の口調で言い、腕を広げ肩をすくめる。コナーは一瞬だけ両眉を上げるとすぐに目を細め、いかにもな呆れ顔で私を見た。
「先月あなたは逃走する被疑者を取り押さえた時に抵抗を受け手首を捻りましたね。そして今週は取り調べ中の男に殴られた。一体いくら怪我を負えば気が済むんですか。少しは注意しようという気持ちはないんですか」
最近自分の身の回りに起こった事を次々と言い当てられて驚いた。手首を捻ったと言っても軽いものだし、殴られたといっても平手打ちをされただけで大したことはない。それよりもまず私はコナーと一緒に仕事をする事は少ないし、むしろギャビンらと一緒に居る事の方が多い。それなのに何故コナーがそんな事を知っているのだろう。
疑問から眉間に皺が寄っていくのが自分でも分かる。助けを求めハンクの顔を見ると、彼は「俺は知らねぇ」とでも言いたげな態度で口を結んだまま鼻で小さく溜息をついていた。泳ぐ目線をごまかすためハンクの顔とコナーの顔を交互に見ていると、そんな私をさらに責め立てるようにコナーが声を上げる。
「あなたが負傷するたびに僕がどんな気持ちになるか分かりますか?」
はっきりと頭の中で『いや、知らないけど』と思った。しかしコナーがこんな様子で怒っているという事はやはり私が悪いのだろう。まず第一に自分の身が守れなければ立派な警察官とは言えないのかもしれないとぼんやり思う。
「よくわかんないけど、なんか、ごめん」
とりあえず謝って場をしのぐのはあまり良い事ではないとは思うが、謝罪の言葉以外が浮かばなかった私はひとまずはコナーに謝る。気まずい空気に耐えられなくなりその場を立ち去ろうとしたが、それをコナーは許さなかった。
「どこに行くんですか」
「え?コーヒーでも飲もうかな、って」
意味も分からず怒られるしなんか気まずいからこの場から去りたい、とは言えずとっさにコーヒーを言い訳にする。するとコナーは椅子から立ち上がり私の腕を掴んで強く引いた。
「僕が持ってきます。火傷でもしたらどうするんですか。あなたはここに居てください」
私は、一番最初に「いい加減にしてもらえませんか」と言われた時と同じような顔をしていたと思う。コーヒーメーカーで火傷をするなんて滅多にしないだろうと思いつつも言い返す事は出来ず、口を半開きにしたまま固まる。そんな私におかまいなしにコナーはさっさとオフィスを出て行きコーヒーメーカーのある休憩スペースに行ってしまった。
「……私、嫌われてんのかな」
小さな声でぽつりと独り言ちた。その呟きはすぐ近くに居たハンクには聞こえていたようで、彼は盛大な溜息をつくと片方の眉だけを歪めて言った。
「……逆だろ」
ハンクの言葉もコナーに怒られたという事も私には意味が分からず、ただ眉間に皺を寄せる事しか出来なかった。