December 31st, 2018

 近所に住むイライジャは昔から変わったやつだった。機械ばかりに熱中し、髪はいつもぼさぼさで見た目にはあまり気を使っておらず、ガールフレンドどころか友達すら少なかったように思う。こうして近所に住む、いわゆる幼馴染の私が気にかけて居ない限りイライジャはいつも一人だった。

 そんなイライジャは誰よりも頭が良かった。飛び級に飛び級を重ねて大学を卒業してすぐに会社を立ち上げたと聞いた時は驚いたけど、あいつの変わった性格と頭の良さがあれば不可能ではないのだろう。資金はどうしたのだろうと考えた事もあったが、そんな事は私にとってはどうでもいい。

 2018年の12月31日。あと数時間で年が変わるであろうそんな日に私はイライジャのもとを訪ねた。彼が立ち上げた“サイバーライフ”は会社という名目ではあったが、イライジャの自宅のガレージの一部を改装して作られた狭いスペースでしかなく、彼はいつもそこで良く分からない機械とにらめっこしていた。

 いつかこの小さな“会社”も大きくなるのかなぁなんて当てもない想像をしつつ、私はガレージのすみにおかれたボロボロの作業台の上で工具を片手に機械をいじっているイライジャの背中に声をかけた。

「ねー、イライジャ、ひま?うちでカウントダウンパーティしない?」

 私の声にイライジャは手を止め振り返り私の顔を見ると、これ見よがしに大きなため息をついた。

「見て分からない?暇なわけないだろ。気が散るから帰ってくれ」

 イライジャは冷たい声色でそう言い捨ててから、すぐに体を作業台の方へ向きなおし再び工具を手に取った。その様子にカチンときつつも、私も彼を真似するように大きなため息をつく。

 どうせ友達も彼女もいないひとりぼっちのイライジャくんを、優しくて可愛い幼馴染がカウントダウンパーティに誘ってあげたっていうのに「気が散るから帰れ」とは、なんて奴なんだろう。

 私はイライジャの背中に足早に近づき、作業台に体重をかけ寄りかかると彼の顔を覗き見た。イライジャが少しだけ睨むようにこちらを横目で見たので、私は両眉を上げ肩をすくめる。

「あんたってほんとつまんない男」

「余計なお世話だよ。帰れって言っただろ」

「機械が恋人ってやつ?そんなんだからいつまで経ってもガールフレンドが出来ないんじゃない?」

 その言葉にイライジャの手が止まり、音も立てずに持っていた工具を台の上に置いた。あ、言い過ぎたかも。私がそう思った時にはもう遅く、イライジャは体をこちらに向けたのだが私の顔を見るわけでもなく、俯き加減に呟いた。

も僕なんかに構ってないで、どこか他の男のところにでも行けばいいだろ」

 「他の男」という言葉が心に引っかかった。イライジャは本当につまらない男だし、本当に馬鹿だ。12月31日という今日にわざわざ私がこの場所に来た意味をコイツは分かっていない。機械ばかりに夢中になってないで、目の前の女ぐらいしっかり見なさいよ、と思う。

 台に置いた工具を手に取り、再び作業を始めようとしたイライジャの腕を掴んだ。驚いた彼がこちらを見返したので、私は顔を近づけて小さな声で囁く。

「他の男じゃ嫌だって言ってんの。ひとりぼっちのイライジャくんが良いんだよ、私は」

 イライジャの眉がピクリと動き、まぶたが微かに震えているのが分かる。ああ、やっと私の方をちゃんと見た。それがなんだか嬉しくて、私はそのまま彼の肩に手を置き背伸びをするとイライジャの額にキスをする。

「おい」

 そのキスと同時に低い声が耳に響き、自分の視界が何かで遮られ暗くなる。イライジャは私の顔に手を当て、引き離すように私の体を押した。バランスを崩しそうになった私はふらつく両足を地面に付け、作業台の上に片手を置く。

「昔から本当に読めない奴だな、……君は」

 イライジャは俯き私の顔を見ずに小さく呟いた。私は知っている。イライジャがこうして人の顔を見ずにボソボソとしゃべる時は照れている時だと。なんだか嬉しくなって思わず笑うと、顔を上げたイライジャと目が合った。

「行くよ。行けばいいんだろ」

 “仕方がない”とでも言いたげに肩をすくめ、ため息交じりに言ったイライジャの顔が少しだけ赤く見えたのは、私の都合の良い思い込みだったのかもしれない。それでも私はイライジャが「行く」と言ってくれた嬉しさだけで、もうどうでも良かった。

 2018年12月31日。年が変わるまであと数時間。来年もずっと、彼と一緒に居られますように。