肉と骨の間で溺れていたい
数なんて覚えていられないほどに抱き慣れた女。それでも飽きたことなんて今までに一度もなかった。はいつも物静かで、冷めた目をしていて、何を考えているか分からない。それはいつどこだって同じで、ベッドの上で俺に組み敷かれている今ですら変わらない。
押さえつけた腕がベッドに沈み込み、股の間に足を滑り込ませると膝の辺りが股間に触れた。短いスカートがめくれあがって下着と肌がちらりと見える。は張り付いたような無表情をそらそうとしたので、顎を掴んで無理矢理にこちらを向かせた。俺の指輪が顔の肉に軽く食い込む。
薄暗い部屋で、尚且つキスをするのにサングラスは邪魔でしかなかった。上着を脱ぐついでにサングラスも外してベッドの上に放る。軽く口唇を重ねてから、少し角度を変えて舌を滑り込ませた。すんなりと入ったそれを動かし、同時に口唇を吸う。これも今までに数えきれないほど繰り返して来た行為。には口唇を噛まれたことも舌を噛まれたこともない。いつだって抵抗するのは口先でだけだ。
口唇を離して、首元に顔を埋めた。片手での腕を押さえつつ、もう片方の手を服の裾から中へ突っ込むと、手のひらに肌の感触がして高揚した。貧相で僅かにしかない膨らみに到達すると無理矢理に下着をずらし、そこへ直接触れる。
「趙、だめ、やめて」
の口から出たのは甘い声でもいやらしい言葉でもない。それを聞いた俺は、頭の中で“ほら、始まった”と呟いた。服に滑り込ませていた手を引き抜くと、今度はの口元を乱暴に覆う。「う」という息を飲むような声が聞こえ、大きな瞳が俺を見つめた。
「は嘘つきだね。“やめて”じゃなくて“もっと”、の間違いでしょ」
はあまり表情を変えない女だ。例えば誰にも見せないような顔を俺だけに見せてくれたらどんなに良いか。毎日のようにそればかり考えているのに、は何度抱こうと第一声が「やめて」だ。“気持ち良い”だの“もっとして欲しい”だの、そういった類の言葉を口にしたことなど一度もない。こういう時ぐらい普段の自分など忘れてしまえば良いのにと思うが、それをしない。
俺は自身のシャツのボタンを一気に外すとそれを脱ぎ、ベッドの外に投げる。次にの着ていた服を思い切り引き上げ、上半身を露わにさせた。部屋にある少ない照明が白い肌を照らす。胸の下辺りから肋骨が浮き上がっており、以前よりもさらに痩せてしまったのだということが分かった。肉付きの悪い貧弱そうなこんな体にも欲情する自分は、本当に心の底からに惚れているのだなと思い知らされる。
「どうして欲しいのか言いなよ。じゃなきゃずーっとこのままだよ」
は俺を見つめたまま、ほんの少しだけ目を細めた。困惑しているわけでも誘惑しているわけでもない。はただ何も言う気はなく、俺を待っているだけ。こいつはそういう女だ。
『ずーっとこのままだよ』なんて言ってみたものの、ずっとこのままになんか出来るはずがない。俺が耐えられるのは良くてあと数分だ。あと数分も経てば、もう一度深いキスをして、この体を愛撫しつくして、何もかもをぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。何もかもを自分の物にしたくてたまらなくなる。きっとそれはにもばれているんだろう。
「あーあ……、お前はいっつも俺の言うこと聞かないよなぁ。どうしたら従順になってくれんの?」
黙り込んでただ俺だけを見つめるに向かってそう言った。浮き出た肋骨に舌を当て、上まで這わせる。でこぼことしているのにそれでいて柔らかく滑らかで、ひどく矛盾しているその様子はまるでと俺そのものを表しているようだった。俺の乱れ切った髪が一束、の肌の上に落ちる。
「何とか言えって、……」
しつこいくらいにその名を呼んでも彼女は返事をしなかった。好きだとか愛してるだとかそんなことは言わなくてもいい。今はただ誤魔化したりしないで、俺だけを見て、俺だけに触れて、俺だけにしか見せない卑猥な姿を見せて欲しい。ただ、それだけだ。
(2022.12.24)