※星龍会モブ組員視点
てめぇらさっさと激情しろ
高部守っつー人は俺らとは比べものになんねぇくらいに頭のキレる人だし、下っ端をまとめる力なんかもハンパねぇ。昔から良く知る奴は「高部は情が絡むと我を失う」なんて言ってやがったが、そんな姿を見たことがねぇ俺からしたらそいつがホラを吹いてるとしか思えなかった。
その高部のカシラを語る上で欠かせない人物が居る。星龍会の会長、星野龍平の孫娘である星野。こいつがまためんどくせぇガキで、カタギではあるが俺や他の奴らがお嬢の迎えなんかに行けば一言目には「高部はどこ?」、二言目は「高部は一緒じゃないの?」って高部高部ってやかましくってかなわねぇ。
カシラもカシラで、お嬢に菓子を差し入れようとすれば「馬鹿野郎。お嬢はトッポよりポッキー派だ」だとか、連絡をしようものなら「この時間、お嬢は寝てるから明日にしろ」だとか、誰よりもお嬢のことを把握してやがる。俺としてはもうお嬢にはカシラが付きっ切りでいりゃ良いと思うが、あの人は若頭で忙しい身だ。そうもいかねぇんだろう。
お嬢の男友達の話題が出た時は本当に大変だった。話を聞く限りその男はどう考えてもお嬢を落とそうと狙ってるみてぇで、お嬢は黙ってりゃ美人だし、親父のことを知らずに近づいてくる男も居るんだろう。その話を聞いた時の高部のカシラは眉一つ動かさなかったみてぇだが、後々にお嬢の所にいってああだこうだと問い詰めたらしい。
「どこの馬の骨かも分からねぇ男をお嬢に近づけさせるわけにはいきません」
「うるさいな。高部には関係ないでしょ、ほっといて」
そんな二人のうるせぇ言い争いが俺が待機する部屋の外にまで漏れてた。まぁそんなことには二人とも気づいちゃいねぇんだろうが。
どうせあの生意気なクソガキは高部のカシラに惚れてんだろう。男たちをその気にさせてカシラの気を引きたいという魂胆がミエミエだ。まったくめんどくせぇ。惚れてんならそうだって言えばカシラだってコロッといくだろ。普段からあんなに特別扱いしてるっつーのに。
問題はお嬢が会長の大事な大事な孫娘って所だろうが、まぁそんなこと俺にはどうでもいいし関係ねぇし、このクソうるせぇ無駄な言い争い、さっさと終わってくれねぇかな。メシでも食いに行きてぇな。今日は天丼にしようか、とんかつにしようか。
とか考えてたら、さっきまで言い争う声が漏れてうるさかった部屋が随分と静かになってやがった。なんだなんだと扉に耳をつけて中の音を盗み聞きしてみりゃあ……。
ははーん、なるほど。もしかしてカシラもお嬢も『情が絡んで我を失った』ってなところか。ひとまずお嬢はカシラにまかせちまって、俺はメシでも食いに行こうかな。天丼、とんかつ……、ああそうだ。金もねぇし牛丼にしよう。戻る時にゃあ、カワイイカワイイお嬢にポッキーでも買ってきてやるか。
(2020.11.11)