さっさとめざめて
「シャルルに来い」というたった一行だけのメッセージを東さんから受け取った。あの人がこうして私を呼び出すことはそこまで珍しいことではない。私には東さんが今、どういう状況なのかがなんとなく分かる。恐らく彼は、ひどく酔っている。
メッセージを受け取ってすぐにシャルルに向かうと、中にあるゲームの機体は全て電源が落とされていた。東さんが居るであろう控室のドアを軽くノックするが、返事はない。大きく溜息をついてから扉を開けると、いつものように東さんがソファに座って腕を組んでいた。テーブルの上には氷だけしか入っていないグラスと、大きな酒のボトル。灰皿には吸いかけの煙草が置かれており、煙が真っすぐ天井に向かって伸びている。
「よぉ……、早かったな」
東さんは私の姿を見るなり顔を上げて言う。テーブルの上の酒や彼の様子を見る限り、私の予想は当たったようだ。東さんの声は弱々しく、居眠りでもしていたのか目が据わっていて、よく見れば顔全体が少しだけ赤いような気もする。
「おい。突っ立ってないで座れよ」
東さんはそう言って、自分が座るソファの隣のスペースを手で叩く。“ここに座れ”ということなのだろうが、私はキャバ嬢ではない。酔っ払いの隣に腰を下ろしてお酌をするなんて御免だ。東さんが酔っていることは予測していたし、こうなることは大体分かっていた。それなのにここに来てしまったのは、やはり惚れた弱みということなんだろう。
「」
東さんが私の名を呼び、分かりやすく心臓が跳ねる。何の返答もせずその場から動かないでいると、チッと小さい舌打ちが聞こえた。どうやら東さんは私の態度に苛立ったようで、立ち上がって私の腕を掴み、半ば無理矢理に強く引く。
「座れっつってんだよ。ほら、来い」
どすん、という大きな音と共に、強引にソファに座らされる。すぐ隣に居る東さんから強いお酒のにおいがして、どれだけ飲んだのだろうと思うが想像したって無駄だ。一杯だけお酌をしたらさっさと帰ってしまおう。そう思いながら酒のボトルに手を伸ばそうとした時、何かが自分の腰の辺りに触れた。それは東さんの手で、まるで恋人同士かのように抱き寄せられる。呼吸音がはっきりと分かるほどに近く、思わず唾を飲んだ。
「ちょ、ちょっと……、さすがに飲みすぎなんじゃないですか、東さん。私が誰だか分かってます? 」
動揺を誤魔化しつつ、眉間に皺を寄せ睨みながら言うと、東さんも負けじと私を睨みつけた。
「誰って……、てめぇは俺の女だろうが」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。どう返答すれば良いか分からず、ただ目の前にある顔を呆然と見つめる。東さんは私の腕を掴み自由を奪うと、そのまま倒れ込むようにして首元に顔を埋めた。
「え、ちょっと、待って」
間抜けな声を上げつつ、何も出来ずにただ驚き動揺していると、東さんはそのまま体の動きを止め、石のように固まる。すぐにすぅすぅという小さな寝息が聞こえて来て、拍子抜けした。
「……この酔っ払い」
独り言が狭い控室に虚しく響く。私に寄りかかったままの頭を一度ぶん殴ってやろうかと思ったが、随分と気持ちが良さそうに眠っていたので、やめておいた。
東さんの目が覚め酔いが醒めたら、一体どんな言い訳を聞かせてくれるのだろう。もし何かの間違いだなんて言ったら、承知しないんだから。
(2021.12.3)