深夜三時、声だけで足りる?

 枕元に置いておいたスマートフォンが強い光を放つ。帰ってきてすぐ、化粧も落とさずにベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまっていた自分は、その光で目が覚めた。次の瞬間には着信を知らせるけたたましい音が鳴り出し、こんなに音量を大きく設定していただろうかと驚く。電話の相手が誰なのかも確認しないまま、私は慌てて通話ボタンをタップした。

「もしもし」

 つい先ほどまで眠っていたせいか、声が上手く出ない。かすれているような裏返っているような、相手には聞き取りづらい声だっただろう。そのせいか電話の相手は少しだけ黙り込み、小さな溜息をついた。

「……俺だ」

 聞き慣れた声がそう言う。耳に当てていたスマートフォンを離しディスプレイを確認すると、そこには着信の相手である“東 徹”という名前が大きく表示されていた。予想外過ぎる相手に思わず寝転がっていたベッドから飛び起きる。床に落ちそうになりながらもベッドサイドに座り、体勢を整えた。

「び、びっくりした。東さんが電話してくるなんて珍しい……」

 独り言のような言葉に東さんは「まぁな」という曖昧な返事をする。それを聞きながら部屋の壁にかけてある時計を確認すると、時刻は午前三時に近い。

「どうしたんですかこんな時間に。何か急用でも?」

 東さんが私に電話を掛けてくることは珍しかったが、そもそも彼が時間帯を考えずに行動すること自体が珍しい。いつも私のことを考えてくれる東さんは、仕事や就寝の時刻にコンタクトを取ってくることはない。それなのにこうして電話をかけてくるということは何か急な用事でもあるのだろうと考えた。

 向こう側から、チッと言う小さな舌打ちが聞こえる。

「……用がなきゃ、お前に電話しちゃいけねぇのか」

 心臓を強く掴まれたような感覚がし、息が苦しくなる。東さんが素直じゃないということは十二分に分かっているつもりだ。きっと彼は“お前の声が聞きたかった”なんて口が裂けても言わないのだろう。

、お前……、次はいつ来るんだ」

 私は質問の意味が分からず「え?」という間の抜けた声を出す。東さんは先ほどよりも大きな舌打ちをすると「次。いつ俺の所に来るかって聞いてんだよ」と付け足した。

 ほらやっぱり、と心の中で呟く。やっぱり東さんは素直じゃない。“早くお前に会いたい”と言って欲しい。でも彼はいつだって私が期待している言葉をくれはしない。言葉を捻じ曲げて、遠回りさせて伝えてくる。ここでもしも私が、“私は今すぐに東さんに会いたいので、そっちに行っても良いですか?”なんて言ったら、東さんも少しは素直になってくれるだろうか。と想像した。

「東さん、私、……」

 甘い言葉を口にする心の準備は出来ているはずなのに、妙に心臓がうるさい。スマートフォンの向こう側から聞こえる東さんの声と吐息が、ひどく艶めかしく聞こえた。


‎(‎2022‎.1‎.25‎)‎