ロマンチックを飲み下せ
いま、何時だろうか。そう考えるも時刻を確認する術がない。今日は飲みすぎた。いや正確には飲まされすぎた。RKメンバーの男たちの相手をする時はいつも記憶を失くす程度には酔っぱらってしまう。私がひたすらに飲まないと彼らの機嫌を損ねるからだ。
歩き慣れたはずのピンヒールがひどくうざったく、ソファを探す気にもなれなかった。倒れ込むかのように床に座り、冷たい壁に寄りかかる。視界がゆらゆらと歪んで見えた。
「ずいぶんと酔ってるみたいだな、さん」
聞き覚えのある低めの声。気が付くと目の前に相馬さんが居てこちらを見下ろしていた。相変わらずの冷たい目線。『さん』というわざとらしい呼称。優しい微笑みをこちらに向けてはいるがそれはまやかしだ。彼は私のことを文字通り見下している。どうせ私のことなど人と思ってはない。相馬さんにとって私は道具以下かもしれない。そもそもよくもまぁ私の名を覚えていたものだと妙に感心してしまう。
『ずいぶんと酔ってる』という相馬さんの言葉に、おっしゃる通りです、という一言すらも発するのが億劫だ。何も言わずに黙り込み、ただ彼の綺麗な顔だけを見上げた。すると、相馬さんは水の入ったペットボトルをこちらに差し出した。既に蓋は開いており、恐らくは水でも飲んで酔いをさませということなのだろうと解釈する。
「ありがとうございます……」
お礼の言葉を力なく呟いてから受け取ろうとした瞬間、手が伸びて来て顎を思い切り掴まれた。何が起こったのか理解出来ないでいると、相馬さんはそのままひざまずき、私の口にボトルの水を注ぎ始める。いくらかは喉を通って胃に入ったものの、飲み切れなかった水が口から溢れ思わず咳き込み吐き出した。
気が付けば手は離れ、俯いて口の中の水を全て外に出す。口元どころか首や胸や床までもがびっしょりと濡れてしまった。軽く咳き込んでから、はぁと大きく溜息をつく。
「あの、相馬さん……、飲ませてくれるのは嬉しいんですけど、もうちょっとこう、ロマンチックに出来ません……?口移しするとか、色々あるでしょ……」
「……俺が?そんなことするわけないだろ」
口角を上げた妖しい笑顔がハハ、とわざとらしい笑い声を上げた。再び顎を掴まれ身動きが取れなくなる。相馬さんは噛みつくようにしながら、私の口の中に残っていた水を舌で掬い上げるように動かした。卑猥な水音が響いておかしな気分になってくる。
「ひっどい味だな……」
自分からやっておいて何て言い草だろう。私の口元を濡らす水は体温によって生温くなり、ひたすらに不快でしかない。透明なはずの水が、部屋にある意味不明な色の照明に照らされて赤く見える。上品に口元を拭う相馬さんは、まるで私の血を吸う吸血鬼かのようだった。
(2023.12.15)