フォーエバーマイン
私が調査員として所属する横浜九十九課に、飼い猫探しの依頼が来たのは昨日のこと。ミイちゃんと名付けられた毛の長い猫を伊勢佐木ロードに近い路地裏で見つけ、飼い主に届けた帰り道にふと、ヴェッテキッチンの前で立ち止まった。そういえばお昼ご飯も食べずに仕事をしていたため、お腹も空いたし喉も渇いている。一番安いハンバーガーのセットでも食べ、後で九十九くんにおねだりして経費で落としてしまおうか、などとせこいことを考えながら店先に掲示されているメニュー表を眺めた。
「おねーさん! もしかしていま暇? 」
背後から声を掛けられ反射的に振り返ると、そこには見知らぬ若い男性が数人おり、にこやかな笑顔を浮かべこちらを見つめていた。一瞬顔見知りかと思ったが、どの男性にも見覚えがない。
「つかさぁ、今さっきこのへんで何か探してたっしょ? 見つかった? もし良かったら俺らも一緒に探そっか? 」
私は先ほどまでこの伊勢佐木ロードで猫のミイちゃんを探していた。路面に出ている立て看板の裏、植木鉢の影、カフェテリアのテーブルや椅子の下にいたるまで姿勢を低くして探し回っていたため、周囲の人たちには怪しまれたことだろう。彼らもそんな私の姿を見ていたのだ。親切心の裏に下心が透けて見えているこの人たちと関わると面倒臭いことになりそうだと直感し、私はハンバーガーを諦め、無言のままその場から去ろうとした。すると数人の内の一人が「ちょっと待ってよ」などと言いながら私の肩に手を置く。
「はーい、ストーップ」
その時、どこからともなく覚えのある声が聞こえた。声のした方向を見ると同僚である杉浦くんが立っていて、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべながらこちらに大股で近づいてくる。そして私の肩に置かれたままになっている男性の手を掴み、放るかのようにして払いのけた。
「気安く触らないでくれる? この人、僕のものなんだよね。悪いけど諦めて? 」
杉浦くんの声はいつもより低く聞こえたので、恐らく威嚇の意味が込められているのだろう。案の定、声を掛けてきた男性たちはそれぞれ何かしらの文句を呟きながら、そそくさとその場から去っていく。彼らの背中が小さくなっていくと、杉浦くんはどこか満足そうに笑い、まるで“僕があなたを救いました。すごいでしょ”とでも言いたげなしたり顔で私を見る。
「……私、いつから杉浦くんのものになったの?」
「えー、せっかく助けてあげたのにお礼もなし? さんは相変わらず冷たいなぁ」
杉浦くんはそう言いながら、先ほど男性に掴まれた私の肩の上に手を置き、埃を払いのけるかのように軽く叩く。確かに彼の言うことは最もだし、あのままであればどう考えても面倒なことになっていたのは明らかだ。お礼の一言ぐらいは言うべきだろう考えていると、いつの間にか杉浦くんの腕が私の腰に回っており、体を引き寄せられる。
「なんならほんとに僕のものにしてあげよっか? 今から。……なんてね」
こちらに顔を近付け、まるでいたずらっ子かのように言う彼が愛おしい反面、ひどく憎たらしい。私は口にしようとしていた“助けてくれてありがとう”というお礼の言葉を飲み込み、「遠慮しとく」とだけ呟いた。
(2021.10.28)