誘惑コレクション
目を閉じなくても頭の中で思い浮かべられるくらいに見慣れた口唇にキスをする。恐らく、僕が知る限りではごく一般的なキスだ。それを今度はこめかみに落とす。そして頬、喉、鎖骨、肩とゆっくり移動させ、時折肌を吸う。小ぶりな胸に顔を埋めて軽く舌を這わせると、吐息と共に「ん」と小さな声が聞こえた。
顔を上げてさんの顔を見る。まるで手の甲にキスでもするかのように自分の口元に手をあてがっていた。彼女の考えていることはなんとなくわかる。きっと甘い声がもれてしまったこと、そしてその甘い声を僕に聞かれてしまったことが恥ずかしいんだろう。
今ここには僕とさんしか居ない。さんの甘い声を聞けるのは僕しか居ない。そう考えると気持ちが高ぶり、全ての感覚が研ぎ澄まされていくような気がする。何かを焦るかのように指と舌の動きが速くなっていくような気がする。
胸の下辺りに手のひらを当てて、肌を擦るかのようにしながらゆっくりと下へ手を伸ばしていく。おへそを通り過ぎるとすぐに下腹部に到着し、指が湿り気のある場所へと触れた。さんは再び「ん」と小さな声を上げる。
隙間から指先をほんの少しだけ中へ入れて、入り口を弄ぶ。反応が知りたくてさんの顔を見ると、手の甲を先ほどよりも強く口元に押し当てて声がもれないようにしている。なんだか悔しくなって、中指を入り口から先へとゆっくり押し進めた。
濡れた熱い壁が僕の中指に吸い付いてくる。さんが一番感じるであろう部分を探るように動かすと「あ」と一際大きな声が聞こえてきた。ここだ。そこを執拗に攻めると、さんは吐息を漏らしながらも声を出さぬよう必死に手の甲へ噛みついていた。そこまでして声を聞かれたくないのかと半ば呆れのような気持ちにすらなってしまう。
「ねぇ、我慢しないでよ。さんの声、聞きたい」
「やだ」
間髪入れずに反論が飛んでくる。僕を見上げる大きな瞳には涙がにじんでいた。まるで子供のような反応も、官能的に濡れたまつ毛も、全てが好きだ。何もかもを暴いてやりたくなる。壊してやりたくなる。声を出したくないと言うのならば、出させてやればいい。
指の本数を増やし、先ほど探り当てた『さんが一番感じる場所』を再び攻める。同時に暇を持て余している親指ですぐ上にある少し膨らんだ部分を擦ると、さんの声が更に大きくなった。
「やだって言ったのに、杉浦くんの変態、馬鹿、意地悪」
吐息と甘い声の合間に悪口を次から次へと浴びせられる。変態だろうと馬鹿だろうと意地悪だろうと何でもいい。僕をこんな風にしたのは他ならぬさんなんだから自業自得だろ。そう思ったけれど、口にして彼女に聞かせた所できっとまた同じような悪口が返ってくるだけだということは分かっていた。
「変態で、ごめんね」
高揚し、自然と息が上がった。指を引き抜き、見せつけるようにしながら舐める。自分のものを取り出して、さんの粘度と自分の唾液が混ざり合った指先を擦り付けた。さんは変わらない表情でこちらを見上げる。まるで僕を睨んでいるようだったけれど、同時に何かを待ち望んでいるかのように思えた。その『何か』を僕は知っている。
「ちゃんと言ってくんなきゃ、分かんないなぁ、僕……」
とぼけたふりをして呟いた。さんの眉が下がり今度は泣きそうな表情になったのが分かる。そんな顔もひどく可愛らしく愛おしいと思ってしまう僕は、それこそ本当に変態なのだろうなと自覚した。
変態と言われようと、馬鹿と言われようと、意地悪と言われようと、僕はさんの声が聞きたい。もっともっと卑猥で、他の誰にも聞かせたことのないような声を、言葉を。『早くいれて』という、一番いやらしくて僕が待ち望んでやまない、催促を。
(2024.4.22)