少年の恋煩い

 季節は冬。ヒカルの鼻の先や耳が赤くなって、雪でも降りそうなくらい寒いということがわかります。しかしここ最近はなんだかヒカルがおかしいのです。妙にそわそわしたり、溜息も多くなった気がします。大好きな『らーめん』とやらもあまり食べに行かなくなりました。私はヒカルがなにかの病気なのではないかと思って、「最近様子がおかしいですが、どうかしたんですか?」と聞いてみたのですが、ただ「そんなことねーよ」と返されてしまいました。

 ヒカルの様子が一番おかしくなるのは学校に居る時だと思います。机に頬杖をついて同じ方向をじっと見つめていることが多いです。それはもちろん勉強を教えてくれる先生の方向ではありませんし、ヒカルの耳に先生の話など届いていないでしょう。

 ヒカルは落ち着きがない方で、じっと座り黙々と勉強をするタイプではありません。ヒカルがお地蔵さまのようにじっと動かずぼーっとしているのが、私にはとても不思議に見えます。ある日私が「ヒカル、どうしちゃったんですか」と小さく声をかけてみましたが、ヒカル本人にその声が届いてないくらい心ここにあらず、といった感じでした。

 ヒカルがぼーっと見つめる方向を、私も何となく見てみました。それは教室の窓際のほうで、単純に私は何か外に気になる物でもあるのだろうか?と思いました。しかしヒカルが見つめているのは窓や窓の外ではなく、一人の人間だったのです。

 目線の先にはヒカルと同じように座っている女の子。筆記具を床に落としておりました。すると隣に座る男の子がその筆記具を拾い、その女の子に手渡していました。女の子の口唇が「ありがとう」の形に動きニッコリと笑顔を男の子に向けています。何とも思わないその光景から私は目をそらしてヒカルの方向を見ると、ヒカルが眉間に皺を寄せて表情を歪ませていました。

 あれ?これはもしかして?心の中で独り言を呟いたすぐ後に私はヒカルの名前を呼びました。しかしヒカルに声は届いていなかったようで、何の反応も返ってきません。今度は大きな声で「ヒカルってば!」と叫びました。するとヒカルはとても驚いた様子で「なんだよ、うるせーな」と、周りに怪しまれない程度の声で言いました。私は振り向いたヒカルに、ただ何となく、思っていた事を口にしたのです。

「ヒカルはあの子が好きなのですか?」

 ヒカルは驚き目を見開いて私の方を見ましたが、その反動からか派手に椅子から落ちて床にお尻を打ち付けていました。教壇に立つ先生が「おいおい進藤。大丈夫か?」と心配し近づこうとしたけれど、ヒカルは「あ、いや、大丈夫ッス」と言いながら私を思いきり睨みつけたのです。おお、怖い。

 その後家に帰ってからヒカルに「お前フザケんなよ!」とか「好きとかそんなんじゃねーから!」とか色々怒鳴りつけれてしまいました。ヒカルがものすごい剣幕で怒るものだから怖くて仕方ありませんでしたが、顔を少し赤くして怒るヒカルはなんだか可愛らしかったです。いえ、こんな事を本人に言ったら絶対に怒られるのでやめましょう。

 しかし、ヒカルがじーっと見つめていたあの女の子。なんという名前なのでしょう。ヒカルに聞けば教えて貰えるでしょうか。