A Blueberry Night

 いつだったか幼い頃お互いに開け合ったピアスホール。オレのホールはまだしっかりと残っているのに、のものはとっくに塞がり今はうっすらとした痕が残るのみ。お揃いの指輪もプレゼントしたピアスも身に着けなくなった彼女は、もはやオレがよく知る人ではなくなったようだ。

「まぁ、……好きだったよ。キバナのことは」

 はまるで何かに諦めたかのようにフンと軽く鼻を鳴らし、苦し紛れに聞こえる台詞を吐く。

 全部分かっていた。冷たい態度も、昔と違う自分になろうとしているのも全部オレのため。オレを遠ざけるため。しかし勝手なことをされても困る。その程度でオレが嫌いになると思っているなら大間違いだ。 好き“だった”? 勝手に過去にしないで欲しい。

「『だった』ってなんだよ。今でも好きだろ? 」

 いつも通り冗談を言う時の笑顔を見せながら言うと、はオレを軽く睨む。その表情にカチンと来て口角が自然と下がり、足早に近づくと小さな肩に手を掛け強く壁に押し付けた。口唇でも塞いでやろうかと顔をグッと近づけると、は抵抗するように顔を背け、オレも負けじと噛みつくぐらいの勢いで耳に口唇を近づける。

「好きなんだろ、なぁ。素直になれって」

 唸るように言う。相手を口説くような言葉を口にしたのに、それは優しくて甘い囁きなんかじゃない。の顎をつかんでそらしていた顔を自分の方へ無理矢理に向かせると、大きな瞳がオレを睨みつけていた。

「うぬぼれないでよ。わたしはあんたのファンなんかじゃないんだから」

 表情も言葉も攻撃的なのに、目にうっすらと涙が滲んでいるのが分かった。それはどんどんと量が増えていき、瞳の淵から溢れて頬を伝う。その涙の筋に口唇を這わせ、軽く舐める。乾燥した口唇から入り込んだ水分は、こちらまで泣きそうになるほどに切ない味だった。

 それこそドラマみたいに「大好きだよ」と言って、今すぐにオレを思いきり抱きしめて欲しい。でもそんなこと口に出来るはずがない。口にしたところできっとは首を横に振るだろう。

 女というのは綺麗な涙を流しておけば何でも許されるみたいなフシがあって、たまに羨ましく思うことがある。もしもいまこのオレさまが泣きわめいて女々しくすがりついたとしても、好きでいることを許してなんかくれないくせに。