笑い声に免じて

 負けた。敗因はなんだったかと考えるもいまいちまとまらない。相手との相性が悪いのは分かっていたし対策もしていたつもりだった。ぼくがセキタンザンの特性を上手く生かせなかったのもあるだろう。反省点を上げればきりがない。

 体重をかけベンチに腰をかけるとうなだれるように頭を下げた。控室のドアの向こう側から複数の人の声が聞こえてきて、ぼくが出てくるのをマスコミが待ち構えているのだろうと予想する。

「ここに誰も居ないってことは、負けたんだ、マクワ」

 ぼくだけしか居ないはずの控室に聞き覚えのある声が響く。下げていた頭と目線を軽く上げて声のした方向を見るとが立っていた。ホワイトボードがかかっている壁に寄りかかり、腕を組んでこちらを見下ろしている。

「……何故あなたがここに居るんですか」

 なるべく冷たく低い声を意識して言う。しかしはひるむことなくフッと鼻で笑い、組んでいた腕をほどいてぼくに近づいた。ベンチに座るぼくと目線を合わせるようにしゃがみこむと、目の前に通行証のようなカードを差し出す。

「ねぇ見て。わたし知り合いから“ヨロイパス”貰ったんだ」

 がぼくに見せたのはヨロイ島にいくための通称“ヨロイパス”で、確かここから少し離れたブラッシータウンの駅からヨロイ島へ行くことが出来る。しかしはわざわざこれを自慢するためにここに来たのだろうか。馬鹿馬鹿しさを感じたぼくは「だから何だ」、とでも言うように彼女を上目遣いで睨む。

「やだな、怖い顔。そんなマクワに朗報なんだけど、なんと不思議な事にこのヨロイパス二枚あるんだよね」

 目を合わせたままはクスクスと笑い、先ほどのヨロイパスを一層ぼくの顔に近づける。パスは良く見るともう一枚が重なっており確かに二枚あるようだった。それを言うという事は一枚はぼくに譲る気なのだろう。彼女との付き合いは長い。そんなこと聞かずとも分かる。

「あなたは本当に恩着せがましいですね」

「ちょっと、そんな言い方しないでよ。ただ二人でヨロイ島に行ったら面白そうだなって思っただけ」

「……どうだか」

 ぼくは軽く鼻を鳴らし半笑いで返答したが、それは拒む意味を込めたつもりだった。しかしはぼくの片手を半ば無理矢理に取ると、そこにヨロイパスを一枚握らせる。拒否権はないという事かと思いながらため息をつきつつの顔を見ると、とても嬉しそうに笑っていた。

「一緒にヨロイ島に行ったら、マクワのセキタンザンと私のギガイアス、どっちが強くなるか勝負しようよ。ねぇ、良いでしょ?」

 そのあまりにも無邪気な笑顔が、自分の中にあった刺々しい感情を消していく気がした。無意識に口角が上がりフフ、と笑い声がこぼれる。

「……望むところです」

 はどこか満足そうに強く息を吐くと、その場に立ち上がりぼくの目の前に手を差し出す。彼女の手を掴みぼくはベンチから立ち上がった。その時にぼくはやっと気が付く。はバトルに負けたぼくを叱咤しに来たわけでもからかいに来たわけでもない。ただ、ぼくの手を引くためにここに来たんだ。

 次は負けない。彼女にも誰にも、ぼくは負けない。そう強く想いながらヨロイパスを握りしめた。