罪深きデコルテ
ブティックで一目惚れしたスカートを買った。このくらいの年齢になってくると膝を出すことをためらうが、そのスカートは膝が少し隠れる程度の丈で気になりにくく、タイトなデザインで生地も光沢が少ないため自分好みの物。これに胸元から肩が少し広めに開いたトップスを合わせた。肌を出しすぎだろうかとも思ったが、まぁ許容範囲だろうと楽観的に考える。
しかしどうやら彼にはこの服装がお気に召さなかったらしい。顔を合わせるなりわざとらしく目をそらされ、着ていたジャケットを脱ぐとそれをそのまま私に投げて寄越した。ジャケットが顔面にぶつかり視界が覆われ、私は思わず声を上げる。
「ちょっと、いきなり何するの」
投げられたジャケットを落とさぬよう両手で受け止めると、うっすらと彼の香りがした。マクワは香水をつけないためシャンプーか何かの香りだろうかと考える。
「上から着てください」
マクワの言葉に眉間に皺が寄り無意識に「ハァ?」という声が漏れる。彼が言った言葉の意味は分かるが、何故そんな事を言われなければならないのかという理由は分からない。何故マクワのジャケットを着なければいけないのか。そう思いつつ私は何も言わずマクワを睨む。
「そんな服、品がないです。さんには似合わない」
サングラスのブリッジに指をそえ、顔をそらし明後日の方向を見ながらマクワは呟いた。私はその言葉に傷ついたわけでも怒ったわけでもなく、ただ何処となく高揚し「フーン」とだけ返答する。おさえ切れない笑みを隠す気もなく、私はマクワに向かってジャケットを投げ返した。
「“マクワくん”はひどいね」
わざといつもとは違う呼び方をしてみる。案の定マクワは眉を歪めてこちらを見るが、その顔は怒っているというより少しだけ悲しそうに見えた。けれどしょうがない。だってこれはマクワが素直にならなかった罰なんだから。「品がない」だとか「あなたには似合わない」だとか、遠回しな面倒臭い言葉なんか使わずにはっきりと言えばいい。“綺麗なあなたを他の男に見せたくない”と。
「せっかくお洒落してる女にそんな事言っちゃダメだよ」
マクワにゆっくりと近づき彼を見上げて鼻で笑う。手を伸ばし首元のシャツを乱暴につかんで引き寄せると、鼻が触れ合いそうな距離で囁いた。
「“さん”が女の扱いってやつを教えてあげようか」
目の前にあるマクワの顔は困惑するわけでも照れるわけでもなく、ただまるで不機嫌そうに私を睨んで見下ろしていた。
「……結構です」
低い声が耳に響き鼓膜が揺れるような感覚になる。マクワは拒否の言葉を口にしながらも私の腕を振り払おうとはしない。不可思議な状況に思わずフフ、と笑うと、私は自分の額を彼の肩のあたりに押し付けた。
彼が私しか見ていないように、私だって彼しか見ていない。新しい服も綺麗にしているデコルテもただ彼に褒められたいから、愛して欲しいから、触れて欲しいから。その言葉を素直に口に出来ないのは、私も同じ。いつか罰が下るのだろうなと思ったが、今はただ体中を包むマクワの香りに酔いしれていたいと思った。