口羽しに口付け

「リーバルは、好きな人にどうやって愛情を表現するんですか」

 何の前置きもなくは僕に問いかけた。

 神獣とやらの遺物の繰り手に選ばれた僕は、叙任式に参加するためにハイラル城に来ていた。城に仕えていると久しぶりに顔を合わせたのだが、彼女は「お元気ですか」だとか「お久しぶりです」だとかそんなありきたりな挨拶すらもせず、僕に訳の分からない質問をした。

 “愛情を表現する”だなんて普段使わない単語を並べられて背中がむずむずとかゆくなるような気がする。はふざけているのか、それとも恋愛のポエムでも書くつもりなのかと僕は考えたが、こちらを真っすぐに見つめる目は質問が冗談などではないという事を示しているように思える。

「なんだい、いきなり」

 先ほどの叙任式で貰った青いスカーフを手羽の先で弄びながらため息交じりに返答すると、は口を結んで唸るように考え込む。次に口にする言葉を頭の中で選んでいるようだった。

「単純に言いますと、リト族ってどうやってキスするんだろうと思ったんです」

 彼女の口から出た言葉は単純かつ単刀直入な物で、先ほどの考えるような素振りはなんだったのだろうかと感じた。確かにハイリア人とリト族では体の構造が明らかに違う。リト族には口唇がないため、僕らはハイリア人と同じように口唇と口唇を合わせるキスが出来ない。しかし僕から言わせれば愛情表現イコール、キスという考えが安直だ。例えば両翼で抱きしめ合ったりだとか、くちばしを相手の体に擦り付けたりとか、顔を近づけ合ったりだとか、体を使ったキス以外の愛情表現なんていくらでもある。

 僕は何の返答もせずにの顔を見る。目が合うと彼女の眉が一瞬だけピクリと揺れ、瞬きが増えた。そう、は分かりやすい。ちょっとした心境の変化がすぐに表情に出るし、今だってこうして目が合っただけで僕を意識しているのが丸わかりだ。

「……試してみるかい?」

 なんとなくをからかうつもりでその言葉を口にした。案の定彼女は目を見開き驚いたような表情をしたかと思うと、肩を大きく揺らしその場から後ずさるように動く。その行為を許すまいと僕は素早くに歩み寄って距離を詰めた。

 の肩を掴み顔を近づける。目の前にある顔は焦って青くなっているのか、照れて赤くなっているのか良くわからない不可思議な表情になっており、口を閉じたり開いたりを繰り返し酷く間抜けに見えた。はどもりながらも「ちょっと待ってください」と口にし、続けて言う。

「試すって、そんなことしたら私の口唇がズタズタになるんじゃないですか?私も一応女なので顔に傷がつくのは勘弁して頂きたいんですけど」

「いいだろ別に。の顔がズタズタになって嫁に行き遅れても僕が貰ってあげる。死ぬまで僕の身の回りの世話でこき使ってあげるから」

 肩を掴む翼に力をこめると、は何かを覚悟したかのように強く目をつぶり口を閉じた。これが彼女の“最後の抵抗”だと思うと笑えてくる。吹き出してしまうのを堪えながら、僕はくちばしを白く丸い頬に擦り付け、囁いた。

「今みたいなことを僕以外のヤツに聞かないでくれよ?。その時は本当に君の口唇をついばんでズタズタにしてやるから」

 そう言い切ってすぐに近づけていた顔と掴んでいた肩を離す。僕がくちばしを擦り付けた頬は白かったはずなのに真っ赤になっており、はそれを隠すように頬を手で押さえていた。その表情を見て率直に“たまらない”と感じる。こんな表情を見せてくれるから、僕はをからかう事をやめられないんだ。

 僕はそのままに背を向け、城の外に出る道へ歩き出す。その途中でわざとらしく歩みを止めると、まるで“今思い出しました”と言うように「あ、そうだ」と口にした。

「知ってると思うけど、僕は今日から“英傑”なんだ。これから忙しくなるから君の相手も出来なくなるかもしれない。悪いね」

 振り返りの姿を確認することもなくそのまま再び歩き出したが、も僕を呼び止めるようなことなどはしなかった。真っ赤な顔と真っ赤な目でこちらを睨みつけているの表情が安易に想像出来る。僕は歩きながら、次に彼女に会うその日までに違う愛情表現の方法を考えておこうかなどというくだらない事を、ぼんやりと考えた。