情は百病の長
「ねぇ、わたし太った?」
イーガ団アジトの奥深くにある自室にスッパを呼び出し問うと、彼は返答もせずに微動だにしなかった。
「突然呼び出されて何事かと思えば……」
仮面をつけているためスッパの表情は分からなかったが、ゆっくりと首を横に振り頭を抱えるような仕草をした。恐らく呆れたような顔をしているのだろう。
くだらないことを聞くな、とでも言いたげなスッパの態度が気に入らない。私も一応は女であるし、いつまでも美しくいたいと思うのは悪いことではないだろう。イーガ団の仲間たちは誰も彼も四六時中バナナばかり食べていて、私も同じような食生活を送っていたら、いつかあのコーガのようにお腹が出っ張ってくるのではないかと気になり始めたのだ。
「そんな仕様もない問いに付き合うほど暇ではない故、失礼してよろしいでござるか」
「“仕様もない問い”とは失礼ね。本気で悩んでるのに」
スッパの言い草に反論しながら、すぐ近くにあった棚の上に山盛りに置かれたバナナを一本手に取る。皮を一枚、二枚とむいたところでハッとした。体型を気にしているのにすぐこうやって無意識にバナナを食べようとしてしまうのがいけないんじゃないか、と思い、手に持っていたバナナをすぐに棚に戻す。
ハァ、とため息が聞こえ、それはスッパのものだった。ある程度音が仮面でかき消されたため、それなりに大きなため息だったのだろうと予想する。軽く睨むと、スッパは大股でこちらに近づき私を見下ろした。
何かを言われるのだろうと身構えていると、スッパの太い腕が私の腹辺りに回り、そのまま体を持ち上げられる。内臓が浮くような感覚にパニックになっていると、スッパは私の体をまるで獲った動物でも担ぐかのように肩に抱えた。
「ちょっと、スッパ!?」
反論の声など聞こえていないかのように、スッパはそのまま部屋の隅にある私の寝床まで数歩進み、立ち止まった。再び抵抗しようとした瞬間、私の体を放り投げるかのように寝床に落とし埃が舞う。何が起きたのか分からず、薄い布が敷かれただけのそこに体を打ち付けてあちこち痛んだ。
なにするのよ、とでも怒鳴ろうと口を開こうとしたその時、スッパは寝床のすぐ横にひざまずき、私の顔を覗き込んだ。
「殿はコーガ様の三分の一程度の重さでござる。……ご安心なされよ」
伸びて来た腕が肩の上に置かれ、そのまま押さえつけるように力を込められた。姿勢を低くしたとしても体の大きい彼と私の目線は合わず、まるで迫られているようなその状況に呼吸が浅くなる。スッパの仮面についている傷をゆっくりと見つめるとなんだかひどく恥ずかしくなってきて、私は思わず顔をそらした。
「せっかくなら三分の一とか微妙な数字じゃなくて、盛りに盛って百分の一とか言って欲しかったな」
まるで独り言のような呟き。スッパの大きな手が私の頬に触れ、自然と目線が上がり彼と目が合った。仮面をつけているスッパと目が合ったなどと思うのは滑稽かもしれない。それでも目が合っていた。合っていると確信していた。
「その様なわがまま、あすからはお控え願いたいものでござるな」
“あすからは”ということは、今日までは許されるのだろうかと揚げ足取りのようなことを考える。私はスッパの胸倉を掴んで引き寄せると、仮面越しにキスをした。
さぁ明朝まであと数時間。どんなわがままを聞いて貰おう。まずは手始めに焼きバナナでも作ってもらおうかな、などとぼんやり思った。