※『許してよ馬鹿』、『許してくれよ馬鹿』と同一主人公の番外編
白々しく潰れてみれば
と別れてから俺は一切女に触れてこなかった。あまりにも女っ気のない俺を心配した海藤の兄貴が「風俗でも行ってこい」と金を渡して来たこともあったが、丁重に断った。俺にとっては以外の女なんて意味がなかった。触れるならが良いと、でなければ意味がないと思っていた。
しかしいざその機会が回ってくるとどうすれば良いか分からない物だなと、まるで他人事かのように感じてしまう。女の体に触れるのがあまりにも久しぶり過ぎて、力を込めすぎなのではないか、うっかり壊してしまうのではないかと心配になる。
事に及んだのは玄関の床。こんなところでこんなことをしている自分があまりにもはしたなく、あまりにもいやらしい感じる。まるでどこぞのフィクション動画みたいだ。俺のぎこちない愛撫にもは何度も達していたようで、冬だというのにじんわりと汗をかいていた。真っ白な体に触れるたび肌が手のひらに吸い付いてくる。
は荒く息をしながら小さく身じろぎをした。硬い床のせいで背中が痛むのだろう。この場所で最後までしてしまえばの体を壊しかねない。玄関から見える薄暗い部屋の奥にはベッドらしき物が見え、せめて移動しようと思った俺はの背中と膝の裏に手を差し込んで横抱きにした。
「待って……」
は俺の腕のなかで弱々しく言った。緩み切った表情を浮かべながら散々はだけた服を手で支えて体を隠そうとしている。その恥じらう姿があまりにも可愛かった。
部屋の奥まで移動するとベッドの上にをゆっくりと降ろした。少し離れた場所にある玄関の灯りを頼りにの顔を見つめる。するとは両手を前に出して自分の顔を隠した。快楽に溺れてどろどろに溶けたかのようなだらしない顔を明るい電灯のある玄関で散々見せていたというのに、何を今更と感じてしまう。
「……隠すな」
両手を取ってベッドに押さえつける。の大きな瞳が俺を見つめた。まつ毛が微かに濡れているようで、部屋の僅かな光源を受けて輝いて見える。そこへ口唇を落とし、次に頬、次に首、次に鎖骨、ゆっくりと口唇を下に移動させて行った。
いつだったか海藤の兄貴に「いつ何処で何があるかわかんねえんだから相手のために持っとけ」と渡された避妊具を取り出す。兄貴はエチケットだのマナーだのと言っていたが俺には良く分からなかった。俺は以外の女と『何かある』なんて考えられなかった。『何かある』のならばその相手はでなければ意味がないと思っていた。
腰を落とすと濡れ切った熱い壁が迫ってくる。押し進めていく度に狭くなっていくような感覚に包まれ自然と息がもれた。空想の世界で何度も何度も抱いた女がいま俺の目の前にいる。汗も涙も情欲的な粘度も全てが混ざり合ってお互いの体を行き来し、甘く高い喘ぎ声が俺の名を呼ぶ。余裕などこれっぽっちもなく、出来る限り優しくしようと思っていたのに、そんなことはまるで出来そうになかった。
一番奥まで到達してからそこを軽く突くと、の口から「んぅ」という唸るような声が聞こえた。眉間に皺を寄せ苦しそうな表情をしており思わず心配になる。しかし想像以上の締め付けと気持ちの良さに俺の余裕はあっという間に削られていった。
「痛ぇ、か?」
一定のリズムでゆっくりと体を揺らしながらに問う。小さな吐息と共に甘い声をもらしていたは弱々しく首を振った。
「ちがう。痛くない、きもち、い」
その声があまりにも愛おしかった。小さな頭を掴んでこめかみに口唇を落とすと中が強く締まり、卑猥にうごめく。思わず奥歯を噛みしめ息を止めた。の腕が俺の背中に回り、強く抱き締め合うかのように体が密着する。自分の体の奥から何かがこみ上げてくる感覚がして、俺はそのまま果てた。最後まで、の口唇に触れることは出来なかった。
その夜、俺は何度も何度もを抱いた。今まで会えなかった時間が長すぎたせいだ。それでも、何度抱こうとが俺の物になる気がしなかった。と別れたこと。いまこうしてに触れてしまったこと。何もかもを後悔した。何もかもが遅すぎるのだと気付くことすらも遅すぎた。
薄闇だというのに白すぎる肌は目が潰れそうなほどに眩しく、見覚えのあるほくろが異常なまでに目立っていた。ああそういえばこいつはこんなところにほくろがあったな、などと思いながらそこへ口唇を落とす。
俺の下に組み敷かれながら「とおる、とおる」と何度も名を呼ぶ声が耳にこびりつく。の声も色も味も感触も、全てが脳に強く焼き付く感覚がした。